投資指標のはなし

      2020/11/20

たまには仕事の話題もね、ということでシュウトウです。

投資用不動産を取り扱う場合、否応なく求められるのが投資指標に関する知識。
ですが、不動産業界において十分なリテラシーを身につけている営業マンは、実はあまり多くないのではないかと思います(私感ですが)。

例えば、業界的には頻繁に「利回り」という言葉を使います。
「利回り」とは、投資金額に対する収益割合を1年あたりの平均として表した数字のことで、投資分析に用いる基本的な指標のひとつですが、このちょー基本的な指標すら、おそらく共通の認識のもとで使えていないというのが実情です。

具体的に言います。

不動産投資においては、「利回り」と言っても、想定を含む潜在収益に対する投資効率を表す「表面利回り」という概念と、運営コストなどを差し引いた実効的な収益に対する投資効率を表す「実質利回り」という概念に大別されます。
そして、業界的には「表面利回り」のことを「グロス(利回り)」、「実質利回り」のことを「ネット(利回り)」と言ったりしています。

そこで、まず「表面利回り」について詳しく見ていきますが、一般的には次の式によって求めます。

GPI÷物件価格

「GPI」とは「Gross Potential Income」のことで「総潜在収入」と訳されます。
ここから「グロス(利回り)」などと格好つけた感じの表現が生まれます。
定義は「空室・貸倒損がないと仮定したときの年間の賃料収入総額」で、要するに満室想定年収です。

注意すべきは、基本的に賃貸収入とみなされる費目の合計であるということ。
そのもの「賃料」のほか、「共益費」や「駐車料」などが含められます。
一方で「自動販売機売上」や「売電売上」などは、本来の物件がもつ潜在収益力とは言えないため「GPI」には含まないというのが正しい理解です。

ところが、これらを含めて計算し「表面利回り」と表示している資料を時折見かけます。
それどころか、預かり金的な性質の「水道料」や「町内会費」まで含めているものもあります。

さぁ、もう怪しくなってきました。
不動産投資の指標としては、基礎中の基礎のはずなのに…。

ちなみに、投資効率を計算するうえでは「物件価格」だけでなく「購入時諸費用」など投資総額で計算すべきとも考えられるので、厳密には「利回り」の定義との齟齬もありそうですが、ただ業界的に「表面利回り」では投資対象となる物件の価値を図るという共通の認識が成立しているので、ここではスルーすることにします。

つづいて「実質利回り」についてですが、これが問題です。
なぜなら、「実質」とはどこまで「実質」を求めるかがはっきりしていないから。

定義がはっきりしている指標で「NOI」というものがあります。
「Net Operating Income」の略で「純営業収益」のこと。
これは、次の式で求めます。

EGI-OPEx

「EGI」は「Effective Gross Income(=実効総収入)」で、先程の「GPI」から空室・貸倒損を控除して、雑収入を加えたもの。
…こんがらがってきました?

言い換えると「GPI」は満室想定の賃料総額でしたが、ここから空室や賃料未払などのマイナスを考慮して、かつ「GPI」には含まなかった賃料収入以外の付加的な収入もプラスします。
実際の収益です。

そして「OPEx」は「OPerating Expenses(=運営費)」のことで、利息支払額と減価償却費を除いた経費(ランニングコスト)を指します。
利息を含まないのは、融資を利用するか否かは二次的な問題だから。
また減価償却費は実際には支出されない経費だから。

つまり、現在の実際の収益を示す「EGI(=実効総収入)」から実体的な経費である「OPEx(=運営費)」を差し引いた残りが「NOI(=純営業収益)」というわけで、なんだ、それなら分かりやすい。

そして、この「純営業収益」を基準に投資効率を出せば「実質利回り」といえそうです。
また「実質」である以上、投資額はすべて考慮すべきなので、「物件価格」+「購入時諸費用」でもって「純営業収益」を割れば、間違いなく「実質」の「利回り」となります。
これが「ネット(利回り)」で、投資一般の指標である「FCR(Free and Clear Retern =総収益率)」と同義です。

さて、私はこれが「実質(ネット)利回り」の定義と考えますし、投資分析的には概ね間違いはない説明のはず。

ですが、不動産業者間で一般的に交わされている「ネットで何%よ?」となると、「収入から経費引いたら物件価格に対してどれだけ回るのよ?」の略なので、「経費」の範囲はあいまいだし、「実効総収入」の定義にも乖離がありそうだしで、もうこうなると怪しいどころの話ではなく、本来の「ネット」とは別物です。
さらに恐ろしいことに「現況収入」を「物件価格」で割った数字が「ネット」と勘違いしている人すらいます。
個人的には、なんでわざわざ「ネット」とか言うのかな、と思ってます。

分析などしないならそれはそれで効率的ですし(直感で決めるのもアリ)、いい加減な指標であっても自分のために分析するなら別段構わないと思いますが、プロとしてお客様に接する立場にあって、もっともらしい用語を使って提案するのであれば、やはりきちんと知識を持っているべきだし、正確に取り扱うべきだと私は考えます。
当たり前ですよね。

そういう地道な努力が、不動産営業マンとしての、ひいては宅建業者としての、さらには業界全体の信頼形成につながるのではないか。
格好つけて、分かったようなふりをして、チャラチャラしてたらイカン!

…と、思います。(苦笑)

 - 1F 第1営業部